グループE(添野・篠崎・添野)
東栄運輸株式会社 代表取締役 添野 和良
今回米国視察という機会に恵まれた。訪問先の状況についてはグループレポートで詳細な報告があろうから、少し視点を変えて車両という観点からレポートすることとする。
ニューヨーク到着後最初にたずねたのはカーボンエクスプレス社。タンクローリーによる輸送を行っている会社だ。まず目にした車両は、米国では標準ともいえるべきトレーラートラックだ。ヘッドは後部2軸、トレーラーは後部2軸の標準的な5軸トレーラートラックだ。この車両を前にしてカーボンエキスプレス社のスティーブ・ラッシュ社長より話を伺う(写真1)。
▼視察団より贈呈したはっぴ姿のラッシュ社長(写真1)
アメリカのトレーラートラックと言えばボンネットにスリーパー付きのトラクタを思い浮かべるが、この車両はボルボ製のボンネットトラクタではあるもののスリーパーは無い。何泊にも及ぶ仕事でドライバーの睡眠をモーテルでとらせ、充分に休養をとらせることと、限られたサイズで荷物をより多く運ぶためだとのこと。このトレーラーの連結総重量は80000ポンド(約36.3トン)。スリーパーを無くした分だけより多くの荷物を積載できるのはよくわかる。ちなみにトラクタを2台つけて運ぶと127000ポンド(57.6t)迄運べるという。こういう走り方は日本では聞いたことが無いので耳を疑ったがユーチューブで検索したら、2台どころでは無く3台で牽引と推進で運ぶ画像がいくつもあって、さすがアメリカだと思った。
続いて整備工場へ案内してもらった。工場内では後軸の車輪を外して整備中のトラクタが1台あったが、外されたタイヤを見て、皆このタイヤの太さに驚いた。幅が30cmはある(写真2)。そして車庫内に止まっていた別のトラクタを見てまた驚いた。後軸が1輪だ(写真3)。日本で見る大型トラクタの後軸は全部2輪(つまり1軸に左右でタイヤが4つ付いてるという事)だから、総重量80000ポンドのトラクタの車輪が1個しか付いてないというのは意外であった。これも、タイヤを少なくすることで摩擦や重量を減らすためらしい。そのために太いタイヤという事になった。後に調べてみたら日本でも自動車運搬車やタンクローリーの一部で採用されてるらしい。広大なアメリカでも、重量制限や寸法制限に対処するための工夫が必要であること、いかに一度に大量に物を運ぶことや燃費低減に知恵を使っているかという事がうかがい知れた訪問であった。
▼ 太いタイヤ(写真2)
最後軸が1輪のトラクタ(写真3)▲
翌日、我々はニューヨークからワシントンへ向かったが、重要幹線という事で、すれ違う大型貨物のほとんどがトレーラートラックだ。この後サンフランシスコでもそうだったが、ほとんどが5軸の大型トレーラートラックで、日本でよく見る大型トラックというのはほとんど見なかった。日本で許可なく走れる車体は、車両総重量が20t、だがアメリカでは80000ポンド(約36t)、最大長は12mだがアメリカは州による違いはあっても65フィート(19.8m)とかそれ以上。軸重は日本が1軸10t以下なのに対してアメリカは2軸で34000ポンド(15.4t)以下だから当然軸数の多いトレーラートラックで大量に物を運ぶ事になる。
▼ハイウェイのSAに並ぶトレーラートラック(写真4) SCALE LANESの看板の手前で停車(写真5)▼
車両メーカーは北米という立地からか、フレートライナー製が3~4割、ケンワースとピータービルトが各2割位か、ボルボも結構見かけた。マックはあまり見かけなかった。色は圧倒的に多いのは白、半分くらいが白色であった。続いて赤や黒っぽいダーク色が1~2割というところ。やはりスリーパー付きの超大型が多かった(写真4)。
メリーランド州に入ったあたりで、ウエイトステーションというのがあって、大型車両は重量のチェックを受けることになる(写真5)。アメリカでも重量規制は厳しく、こういった重量計測所というのが各州の入り口にあるらしい。軸重制限が日本より厳しいのには驚きだ。
続いて西海岸サンフランシスコの米国日通に移る。前述のとおりアメリカの重量制限は総重量で80000ポンド(36t)である。幅は102インチ(約2.6m)以下、長さはカリフォルニア州で75フィート(22.8m)以下であるとのこと。これを超える、いわゆるオーバーサイズ、オーバーウエイトについては、数インチ程度ならいいが、それ以上のものは許可を受けることになる。各郡(州はさらに幾つもの郡に分かれる)へ許可申請することになるが、かなり大きいものは別として通常2~3日で許可になるとの事。但し黄色の回転灯をつけて誘導車を配置して夜間走行となるそうだ。これは日本と同じだが日本では許可になるのに3か月以上かかることもあり、この辺が日本とは異なる。今回の視察中に2回ほど、黄色のランプをつけて走行していた車両に遭遇した。1度目は初日、前述のニューヨーク州のカーボンエクスプレス社を訪ねた際、同社入り口のすぐ手前で追い抜いた。予期してなかった事でうまく撮影できなかったが大きなホイールショベルを積んだトレーラーが誘導車を後部につけて走っていた(写真6.7)。2度目はサンフランシスコの高速道路ですれ違ったトレーラーがやはり黄色の回転灯をつけて走行していた。
▼黄色のランプを点滅しながら走るトレーラートラック(写真6、7)※後ろからついていくのが誘導車らしきもの
アメリカという広大な土地柄、ごみなども大して分別してないという印象が強くあり、貨物輸送の規定ももっと緩やかだろうと思っていたが、貨物輸送を取り巻く環境は日本とあまり変わらないと感じた。
ウーバーに乗ってみた。
シリコンバレーから発信して、世界70か国にも広がったウーバーを体験してみた。先ず最初はサンフランシスコの滞在するホテルから有名なゴールデンゲートブリッジまで。サンフランシスコ在住の通訳フェイさんに聞いたところ一般的なタクシーなら20ドル位だと言われたが、スマホで検索してすぐ出てきたのは30ドル。白のゴルフGTIだ。早速これに決めると3分で来るという。そして時間どおりホテル前に来たピカピカの白いゴルフに乗車、とても丁寧な運転と陽気な会話で無事ゴールデンゲートブリッジに到着。車を降りると、スマホに「今日のドライバーの評価をしてくれ」と表示が出たので満点の星5つを送る。そして「チップを払うか?」と来たので2ドルほど払った。タクシー代も含めてこれらは全てスマホで決済、あらかじめ登録したクレジットカードから自動的に引き落とされる。どこをどう通ってきたのかも残る。そして帰り、アメリカへ入って購入したSIMの電波が弱く、別のケータイで手続きをとったりしたので、4~5回ウーバーに問い合わせ状態となったが、その間に検索するたびに違う車両が検索され、価格は18ドル~34ドルと倍も違った。結局28ドルのえんじ色のレクサスにマッチング。2分で来るという。乗車してみると、このドライバーはやけに無口、どうやら英語もあまり話せない中国人みたいだ。行きには通らなかった道を通り、中華街を抜けて無事ホテルに到着。
▼ウーバーの領収証(写真8)
3回目は夜、フィッシャーマンズワーフ近傍からホテルまで、これはヒュンダイの車でドライバーは黒人。ジャズをBGMに結構荒い運転だったが最短距離で到着。評価は標準、チップは2ドルとした(写真8)。
こうやって3回ほど乗った感想は、というと、とても便利だと思ったことだ。タクシーに乗るのに一番気になるのは「いくらかかるか?」だ。途中の道が混んでる場合、迂回すれば早く行けるかもしれないが料金が高くなってしまうのでドライバーも乗客もお互いにそのままでいる場合が多い。でもウーバーなら料金が先に決まっているからドライバーの判断で回り道しても乗客は高く払わなくていい。その結果早く着けばドライバーも乗客も助かる。また、ドライバーにとっては都心のように降りたところですぐ別の乗客をひろえるなら別だが、通常は駅待ちのタクシーなど長い時間待ってワンメーター程度の客を乗せるのは嫌だし、乗客もそんなドライバーを見て嫌な思いをするから乗りたくなくなる。でもウーバーみたいにあらかじめ料金を決めたうえで乗せるなら両者ともにニッコリだ。
目的地に対して常にどこを通っているのかがわかるのも安心。そんな訳でユーザーから見たこのシステムはとってもいいものと感じた。種々の問題やトラブルがあるだろうが、いずれ採用されるシステムだと感じた。世界中で採用されているのもうなずける。
話がそれてしまい、本来の視察目的から外れてしまったようだが、いろんな視点からの報告という事でご容赦願いたい。
株式会社篠崎運送倉庫 篠﨑 晃市
シリコンバレーの「SAP」社を視察して
シリコンバレーにおいて数社訪問したが、そのうちの「SAP」社について焦点をあててみたい。(※「SAP」社:本社ドイツでドイツ国内では時価総額NO.1の企業)
米国西海岸のサンフランシスコからシリコンバレーまでは、約60キロであるが、バスでの道のりは特に何もなく、緑は少なく、茶色の小高い山なみで特にこれといった印象はない。そしてシリコンバレーに近づくと日本の楽天などの企業のビル群などが見えてきた。
ご存知のとおりシリコンバレーは特定の行政区でなく、IT(情報技術)企業が集積するサンタクララバレー一帯を指す通称で、半導体の主原料のシリコンに由来している。
また、人材供給源であるスタンフォード大学を起点に南北に延びる複数の幹線道路沿いにハイテクの街が形成されている。グーグル、インテル、フェイスブックなどの世界的企業がこの地から生まれている。
ガイドの話によると現在シリコンバレーはバブル状態で物価が高騰し、ワンルームの家賃は月3,000ドル台(約30万円)がつくこともあるという。
私たちは、今回そのシリコンバレーにおける従業員規模ランキングでは第13位の「SAP」社を訪れた。「SAP」社は主にビジネスソフトウエア開発の大手ソフトウエア会社で売上では筆頭がマイクロソフトであるが「SAP」社は、世界第4位の会社である。
ちなみに従業員数ランキングは、「SAP」社の説明によると以下のとおりとのこと。
1位 グーグル・・・・・・20,000人 2位 アップル・・・・・・19,000人
3位 シスコ・・・・・・・15,800人 4位 インテル・・・・・・10,400人
5位 フェイスブック・・・ 6,800人 ~13位 「SAP」・・・・・・・4,000人
※いずれもシリコンバー内の従業員数
但し13位であるが本社はドイツで、海外勢としては、シリコンバレーではNo.1企業である。
早速お話しを聞くと「イノベーション」を創り上げるということである。これまでの常識が変わるほど社会を動かす技術革新や新しい概念を指すことであるが、そのことを「デザインシンキング」により達するという考えだ。「デザインシンキング」とはデザイン=設計=順序立てたプロセスにより本質の問題は何か、それをお客様と一緒に考え解決、創り上げていくということである。
「SAP」社では、写真にあるような部屋で技術者たちが、議論を交わしアイディアを元にいろんな模型のような試作品をつくるようだ。難しことのようであるが、誰の心にもそのアイディアあるとのことで、自分も引き出してみたいと思う。
結びに今回の米国視察研修に参加させていただき、埼ト協鳥居会長・瀬山団長・関係各位の皆様に深く感謝いたします。ありがとうございました。
東栄運輸株式会社 添野 将矢
〇問題意識と結論について
AIをはじめ情報技術の進歩は日に日に速度を増しており、これらの技術を自社でどのように活用するかは企業経営の重要な問題である。我々を取り巻く経営環境は今後も劇的な変化を続けていくだろう。このような中で、「我々は情報技術とどう向き合い、取り組むべきなのか。そして情報技術を有効に使うにあたり、考えるべき点や思考の手順などに関して、何かヒントはないだろうか。」このような問題意識を持ちながら、私は今回の研修に参加した。
先に結論を述べると、今回の研修で明らかになったことは以下の3点である。
1.基礎的な情報技術は我々の業界に大きな影響を与える。情報技術は主体的に学び、活用方法を検討すべき重要な経営課題である(情報技術とは無縁ではいられない)。
2.情報技術はそれ自体には価値は無い。情報技術を活かして何を行うか、ということが大切である(アイデアが大切である)。
3.アイデアは定められた手順に従うことによって誰でもある程度まで生み出せる(アイデアを生み出す手順が存在する)。
上記が本論の結論である。以下、この考えに至った経緯と詳細を概説したい。
1 アメリカの伝統的な産業は新興企業の「情報技術」によって破壊されたのか?
情報技術の脅威について今日多くの話を耳にするが、本当に既存産業にとって脅威なのは情報技術なのだろうか。このことを検討するために、アメリカにおけるタクシー業界崩壊の事例を用いたい。アメリカではUBERの登場によって多くのタクシー会社が破壊された。サンフランシスコではタクシーよりUBERの台数が圧倒的に多かった(9:1でUBERの方が多いように思えた)。現地で伺った話では、「今や全米でタクシーは駆逐されている、技術を知らなければ既存の事業は食べられ(駆逐され)てしまう」と言う。また、UBERの運転手は「今やセキュリティの観点からもUBERの方が安全。TaxiはDanger(危険)だ!」と話す。私はこの事例について現地でヒアリングや実際のサービスを利用しながら、「何故タクシーは駆逐されたのか」を検討した。その結果明らかになったのは、以下の事実である。
「UBERによって編み出された、シェアリングという考え方は決して最先端技術を使ったものではなく、むしろ既存技術の価値をアイデアによって飛躍的に高めただけである」
利用して感じたことは、「別に最新技術を使っているわけではないが、タクシーに比べて非常に利便性が高く、安心感があるサービス」という事である。UBERのメイン技術であるシェアリング機能は以前から存在する事業形態である(未利用資源の有効活用「もったいない」の精神)。また、配車アプリも、GPSを使ったカーナビやGoogleMapと何ら変わらない。ただ、自分(ドライバー)が経路を設定するのではなく、他人(お客様)が外から車のカーナビに経路を送信できるというだけである(経路設定者と閲覧者の分離)。アメリカのタクシー産業は破壊されたが、得体のしれない最先端技術によるものではない。昔からある何かと何かを掛け合わせた「アイデア」に敗れたのである。
こうしたアイデアはIT企業だけのものではない、伝統的な社風を持つ大企業の例として、米国大手の配達事業者UPS(米国郵便局)が挙げられる。UPS社は米国で最も事業所を持つ配達事業者である(「あなたのそばにUPS」をテーマに多店舗展開を基本方針としていた)。しかし上述のUBERの攻勢に直面し、競争回避と成長実現を同時に実現するために、多店舗展開を活かして各店舗に3Dプリンタを設置した。そして店舗間で図面を送信し合い、受信側の店舗で図面を3Dプリントするサービスを展開している。これによりモノを運ぶより早く、目的地にモノを届けることが出来る。モノの輸送は手段であり、目的ではないことに気が付いたことで、新しい宅配サービス(3Dプリンタ事業)を思いついたのだ。UPS社は米国でも非常に伝統的で変わりにくいと言われる企業である。しかし危機に直面して同社は大きく変貌を遂げた。この事例は大変示唆に富む。
2 日本でも技術を用いてアイデアをひねり出せば企業は変われるのか?
調査を続けていくにつれ、日本におけるアイデア創出について、以下の2つの課題が見えてきた。日本企業は、自社の課題を把握しておらず、アイデアの源泉となる「技術」への意識が薄い。アイデアを思いつく、あるいは拾い上げるための社内ルール(仕組み)が不十分。
(1)第一の課題について
現地ガイドによれば、「現地を見に来る輸送・物流業界の中小企業は意外に多い」という「しかし情報技術を上手く使えている企業は多くない」と話す。その理由は、技術面の経営課題を理解していない、そして情報技術に関する知識レベルが最低水準を満たしていないことが原因であるという。
技術を学ぶために、とりあえず既存の要素を組み合わせてみて、何か発想してみるというのも必要である(現地駐員談)。しかし、その為にはその技術が、どのような仕組みで動いているのか情報を収集し、理解できなければならない。そのために何をすべきか現地でヒアリングしたところ、「情報収集源を持つことが大切である。また、AIが動く仕組みくらいは勉強して知っておいて欲しい」(現地ガイド談)と言う。訪問したbox社では、社内に情報サイトを構築し、社員が有益な情報にアクセスできる環境を整え、会社の情報感度を高めていた。
(2)第二の課題について
SAP坪田氏によれば、最先端技術というのは初めは取るに足らない技術に見える。したがって、多くの会社ではその技術を「取るに足らないもの」として見落とす。しかしそこには落とし穴が存在し、多くの大企業がそれに足をすくわれてきたと言う。そういったものを見落とさずに、拾い上げるには何かしらの「仕組み」や「共通ルール」の構築が必要であるという。SAPでは、社内の新規事業開発のプロセスに「デザイン思考」を用いていた。こうした手法を用いるメリットは、発想の手順をある程度共通化することが出来るため、思考の回り道を抑え、社内の生産性向上に寄与することが出来ることである。通常、人の頭は同時にいくつもの事柄を扱えない。デザイン思考では、考えるべきことを各ステップに細分化し、「今は発想する時間」「次は発想したアイデアを具体化する時間」のように区切り、その場にいる全員の考えるベクトルを合わせることが一つのメリットである。
3 まとめ
情報技術は手段であり、業界を変えてきたのはアイデアである。そして、新しいアイデアを思いつき事業化するのは一部の天才に与えられた能力ではなく、ある一定の点までは定められたプロセスや手順がある、ということがわかった(少なくともシリコンバレーではそう考えられている)。
シリコンバレーの企業は、自らが変わり続けることを美徳とし、変わり続けるために各社が編み出した「仕組み」を用いて組織変革を促している。SAPの坪田氏の言葉を借りれば、「これは大企業だから出来るとか、中小企業では出来ないという話ではなく、やろうと思うか否かである」。このような挑戦的な志向を、研修を通じて肌で感じることが出来、大変有意義であった。