「SAP」

「デザイン・シンキング(思考)」の総本山、シリコンバレー「SAP」。
   
この社屋のイメージも、イノベーションを起こすプロセスのひとつです。
   
そこらじゅう発想を誘発するための掲示、プレッシャーにならないかな?。
   
日本人はもう坪田さんのみ、イノベーションマイノリティーなんですって。
   
   

デザイン・シンキングを企業文化に取り入れたドイツ企業のSAPは、シリコンバレーの 有名テクノロジー企業と肩を並べて戦う外国企業の成功例のひとつであり、多くの日 本企業が視察に訪れる施設を今回も訪問します。デザイン・シンキングは、「共感」を キーワードに潜在的なニーズを掘り起こし、さまざまなプロトタイピングを通じて課題と ソリューションを検証する手法です。働く環境も日本では考えられないような開放的、 アイデアが出やすい環境、どこでも打ち合わせができる環境などを意識しています。

先方からのプレゼン

・SAP社は、時価総額が14兆円前後とドイツで最大のデジタル企業である。
・ここはそのシリコンバレーのオフィスで、ドイツの古く堅く狭い価値観の元に仕事をしていた会社が、イノベーティブマインドを忘れないように意識して(内装等も)自分たちで作ったオフィスである。
・当社のキーワードは「デザイン思考」である。追って説明する。
・日本企業向けの事業開発を担当(現在在籍する日本人は本人ひとり)しており、毎年約2,000人日系企業から視察にくるが、シリコンバレーでは、日系企業のプライオリティは低い。
・当社の従業員の構成は、シリコンバレーで働く人種構成と似ており、一番多いインド人が3割、二番目は中国人2割、アメリカ国籍が1割強、ドイツが1割弱、日本は最もマイノリティーである。
・シリコンバレーのソフトウェア産業は、200兆円超のGDPを上げている(日本全体で500兆円)。
・シリコンバレーでは、給与水準が高く、年収2,500万円でも低所得者で、1000万円未満だと生活保護の対象となる。土地価格がこの30年間に年率7%で上がり続けているため家賃が極めて高い。
・現代ではデジタルが企業の競争力を大きく左右させている。例えばウーバーは、ダイナミック・プライシングといって需要と供給により同じ距離でも乗る度に値段が変わる。また、乗車履歴を見たうえで値段を決めている。つまりこれまではサービス価値の決定権は消費者側にあったが、ウーバーでは提供者側に移り変わっている。すでに貨物輸送の分野でもウーバーラッシュやウーバーイーツという個人向けの配送サービスを全米で展開し、これに打撃を受けたのがUPSである。
・UPSが今手掛けているのは運送業からの脱却で、UPSは世界で最も3Dプリンターを保有している企業となった、全米各地にあるUPSストアに図面を転送して、近くのUPSストアで3Dプリンターでその物を印刷代行するサービスというのを始め、製造業を脅かしはじめている。デジタル能力が問われる時代となっている。
・このような潮流は、日本でもいずれ起こるのではないか。それに対応できるように企業が生まれ変わらせられるかが非常に問われることになる。
・古い体質であったSAPが、生まれ変わることができた3つの要因を説明する。
・1つめは、「ピープル(人を変える)」ということ。シリコンバレーに進出した2010年頃は、9割が既存事業であったが、それを変えるには、ローカルで優秀な人材を年収1600万円保証で採用することとし、全米の就職人気ランキングの11位にランクインした。現在のCEOは、36歳で、高校2年生の時にSAPから内定をもらい、幹部候補生としてSAPからの支援で工科大学での勉強とインターンを経験するなど大きな投資を受けてきた。このような教育コストは、2010年頃の30億程度から現在は200億まで増やして投資している、その一方で結果が伴わない場合には、年間約1割の従業員が解雇されている。
・2つめは、「プレース(場所を変える)」という観点で、どこでイノベーションを起こすかの問題として、新規事業はイノベーティブなシリコンバレー、既存事業はドイツと場所を分けた。
・3つめは、プロセスとしての「デザイン思考」である。イノベーターが同じ方向を向いて同じステップで同じスピード感で仕事をしていく体系を保証することで、イノベーションを生み出していけるということ、共通言語やフレームワークということである。具体的には、安く早く簡単にプロトタイプを作成し、試してみてダメなら次、ダメなら次と回し続けていくというのがデザイン思考である。SAPでは全ての社員にこのデザイン思考を教え込み、イノベーションを起こしてきた。
・新規事業を起こしながら既存事業を守ることが必要で、そのコツは、既存事業を強力な担保とすることである。

 

視察団からの質問

Q.デザイン思考は、本質的な価値に迫るジョブ理論に近い感じか?
A.ジョブ理論はデザイン思考の一部。デザイン思考は、天才デザイナーの真似をすれば凡人でもかなりクリエイティブになれると気づいてまとめたもの。
Q.我々は物流業なのでUPSの3Dプリンターの件は非常に興味深い。消費者に近い小さい商品のデリバリーがUPSの本業だと思うが、大きい商品を運ぶ輸送において、第四次産業革命的なデジタル思考では、どのような変化が考えられるか。
A.運送業の変化は、小さいものをいかに効率的に運べるかから始まっている。例えばアマゾンは、外部の物流業を使わず自前で物流網を構えると宣言している。既に大型貨物機を自前で運用し始めている。アマゾンもウーバーと同じくダイナミック・プライシングの動きをみせており、アマゾンアプリのバーコードスキャナで商品のバーコードを読み取ると値段が表示されるが、その値段はログインした人とタイミングを判断して値段を変えることにチャレンジしようとしている。これらが驚異となるのではないか。
Q.32歳でCEOに昇格したのは、凄い才能の持ち主だからなのか?
A.彼一人の才能だけでなく、やはり育てる仕組みだと思う。
Q.4月にドイツの本社で講演を聞かせていただいたが、ここシリコンバレーにも、企業のコンサルティングをしてもらいながらソフトウェアの開発をサポートしてもらえる部署もあるのか?
A.ドイツとは異なり、ここでは多くの顧客と実証3カ月程度の共同プロジェクトを多数展開しているイメージ。ここは新しく当たるものを早く沢山試していく場所である。

 

Dグループ報告(野村・坂本・穐山)

1 訪問先企業による説明概要(説明者:坪田様)
・坪田さんは、シリコンバレー最大のアウトサイダーとして4000名の従業員を抱えるSAP Labsの一員。福井県出身でドイツの伝統的な会社でシリコンバレーに進出した企業唯一の日本人(インド30%、中国20%、アメリカ20%、ドイツ10%…日本人1人)で、シリコンバレーにて日本企業との新規事業共想を推進している
・伝統あるドイツの会社でありながら、それにとらわれることなく仕事を創造するオフィスである
・これから求められていくのは、デジタルエコノミーにおけるスタートアップ時代に破壊的イノベーションを起こすことである
・デザイン思考とは、※人が本当に必要としているものは何か?※普段自覚していなくても、改善することでより便利になるといった「潜在的な困りごと」を発見すること※その上で、新しい領域を作り出す「破壊的イノベーション」に繋がる※更に、より暮らしやすい世の中の実現を目指す。
   
   
     
         

2 説明を聞いて感じたこと
・オフィス自体が常に楽しく、チャレンジ出来る環境、会社全体がフレンドリー、社員が仕事に対して真剣に打ち込める環境にあるし、報酬としても見返りを受けられる
・お客さんの要望に対して、それをミッション化して、達成することを考えているようである
・自由には責任が伴う
・既存事業を守りながら、新規事業を作る

 

Eグループ報告(添野・篠崎・添野)

SAPはドイツを本社にするERPのリーダー企業であり、世界の大手企業をクライアントに抱えています。クライアント企業が創出する経済的付加価値は全世界のGDPの約8割を担うとされており、そうした企業の内部システムを提供する同社は国際社会に対して重要な役割を担っていると言えます。シリコンバレーにある同社オフィスでは、唯一の日本人駐在員である坪田様にお話を伺うことが出来ました。
同氏によると、シリコンバレーでは訪問する企業に対して価値貢献度が重要な評価指標となっているとの事でした。その観点では、日本企業は物見遊山の傾向があり、現地においては敬遠される存在であるとの事でした。坪田様自身、「嫌われている」という強い表現を用いており、現地に対して何ら価値貢献を行わない姿勢は問題視すべきであるとの意見でした。企業が価値を高めていくためには、イノベーション(技術革新)が不可欠であると同社は考えておりますが、日本企業においてはこれらの危機意識が欠如していると思われる点があるとの事です。こうした意識レベルの差が現地視察における日本企業の態度として表れており、日本企業の評判を低下させる本質的な原因ではないかとの話がありました。こうした状況を乗り越えるためには自社の変革が必要であり、そのためには「仕組みづくり」が大変重要であるとの事で、今回の話では同社の手法を事例にご説明頂きました。
SAPはシステム業界で約50年の社歴を持ち、業界内では比較的古い企業です。したがって、変革に対して動きの遅い部分があったと同氏は言います。しかし、同社では今後の企業成長のために新規事業を創り出す必要に迫られ、以下の「3つのP」に注力して自社の変革を実現しました。
第一のPはPeople(従業員)です。同社では、幹部候補生の早期選抜に力を入れており、高校2年生に対して内定を出す活動を約10年続けてきました。その結果、30代前半で同社の役員を輩出するなど、既に一定の成果を挙げています。また、新入社員研修には一人約3000万円の費用を投入し集中的に自社の考え方を教育します。驚くべきは、その新入社員のうち、下位10%が解雇になる仕組みがあるとのことで、非常に競争的であることがわかります。
第二のPはPlace(場所)です。同社では、新しいことを行うには既存の組織と物理的に完全に分断する必要があると考えています。よって、新規事業を検討する際は、部署も、責任者も、評価方法も全て新しいものを用意するとのことでした。
第三のPはProcess(手順)です。アイデア創出には定められた手順があるとの考えのもと、同社は「デザイン思考」を採用して社員にアイデア検討の手法を教えています。手法や手順を知らずにむやみやたらにアイデアを考えてもアイデアは出てこないという考えがあるとの事でした。

説明を聞いて第一に、日本とアメリカでの考え方の違いを感じました。社員を確保するために早期から採用活動を行うことや、自社を変革していこうという強いマインドはシリコンバレーに特有のものであると感じます。 また、こうしたマインドは日本企業にも必要であると感じました。そのような観点からも、今後も引き続き米国の先端企業の動向には注意を払っていく必要があると感じます。

 

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